部屋に戻るとキャンドルの灯は消えていた。
ベッドに残った幸成のかすかなぬくもり。床には幸成が忘れていった革の手袋が落ちていた。
それを大事に拾い上げ、キスをする。
仄かに香るコロンはあの頃と変わりのないものだった。そのことが幸成の心を余計に締め付けた。
「……幸成ッ!!」
何年かぶりに、泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて。暗い部屋の中で、ただ声をあげて泣いた。涙が涸れてもいい。とにかく泣きたかった。
「――――――っ!」
情けないと思う。もう戻れないと告げられた時は幸成のことを諦めようとした。でも今日、つい言ってしまった。今だけでも駄目かと。
俺って、こんなにも諦めの悪い奴だったっけ?それがすごく情けない。
幸成にとって俺の存在は単なるお荷物に過ぎない。それは俺だって承知している。もし俺が幸成につきっきりになれたとしても、多分俺は行かないだろうし、幸成もそうさせないと思う。行ったところで何の役にも立てず、足手まといになるだけだ。
だったらどうすべきだった?どうすることが最良だった?
「……やっぱ俺、バカだよな……。わかんねえよ、そんなこと……ッ!」
心に残ったモヤモヤは後悔なのか、悲しみなのか。そんなことどうだっていい。
今はただ、泣きたい気持ちなんだ―――――――――――――
ロス行きの飛行機の中で手袋がないことに気付いた。
あの後何とか街にたどり着き、タクシーを拾った。運転手は全身濡れ鼠の俺を見て訝しげな顔をしたが、あれはたぶん俺が泣いていたことに対する反応だったんだろうな。いい歳した男がグズグズ泣いている様はさぞ不気味だったことだろう。
(……これで、よかったんだよな)
朋紀だってそのうちわかるはずだ。俺といるより、もっと良い道があるということを。
(最後にキスをもらえて、嬉しかったぞ)
ワイシャツの襟で隠した、首筋に残る赤い痕をそっと撫でながら、窓からどんどん小さくなっていく日本の地を見下ろす。
どうか元気で――――――
―終―
―跋(あとがき)―
この『KISS ME GOOD-BYE』は私の大好きなロックバンドの曲『KISS ME GOOD-BYE』からイメージした小説です。この曲はラストの盛り上がりが何度聴いても涙が出るくらい切なくて、この小説で表現してみたいなと感じたのですが見事に撃沈しました(汗)
今までアツアツを好んで書いていたため、悲恋物(なのか?)は初めての試みでした。本当に最後まで報われませんね。幸成、勝手すぎ。朋紀の幸せを考えるならロスへ引っ張っていけよ、とか書いてて思いました(笑)。
でも続きを書きたいのも事実です。このまま終わらせるのではあまりにも……。みなさんはいかがでしょうか?